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THPコースの学びとTHPとしての役割・課題
 看護学専攻 D3

はじめに
 THPコースの目的は「少子高齢化社会を包括的に支える健康増進モデルを開発・推進する人材を育成する」こととされており、カリキュラムの内容は在宅医療と高齢者リハが中心であった。自身の専門領域とは接点が少なく学年進行上のスケジュールの厳しさもあり、コースに参加する意義について悩むことも多かったが、小児の地域での健康な生活や発達に向けての支援については多くの示唆を得ることができた。以下に、THPコースでの学びとTHPとしての役割・課題について述べたい。

THPコースの学び
 まず、これまでの実践経験や研究フィールドが医療機関中心であり政策と実際のサービス提供体制とのつながりについて系統的に考える機会がなかったため、保健医療福祉政策の動向についての講義は貴重な機会であった。授業では県下の高齢者介護サービスについて、社会背景の変化に基づく法・制度の改正によるサービス提供体制の整備のプロセスと具体例の解説とともに、要介護認定者の実態、サービス利用者数、介護保険給付費、被保険者負担のデータなどをもとに、ケアサービス体制の見直しの必要性も示された。小児医療では在宅医療や在宅ケアの提供体制が確立・整備されつつある段階と思われるが、ケアの質や提供体制、その評価について自分なりに考えるきっかけになった。
 時代性や社会の風潮・価値観がいかに人の生活や健康に影響するか、ということも新鮮な視点であった。情報産業や通信技術の発達によるコミュニケーションの変化が家族や友人との人間関係に与える影響の大きさを考えると、先行する研究や理論のみに頼らず今ある人々の思いや在り方をもっとしっかりみていかなければと思った。また、若者の雇用の問題や失業率については、健康障害をもつ場合では一般の若者以上に厳しい現実があり、彼らが社会の中で自立した生活を健康的に営めるためには受け皿である社会全体の変化も必要であり、研究による問題提起の重要性を感じた。
 THPコースは専攻横断型カリキュラムであり、理学療法学・作業療法学という他分野のモデルや健康観、またPT・OTの役割について、授業およびグループワーク等での交流を通して実感できたことも貴重な経験であった。理学療法では動作(運動)能力・身体機能の回復のプロセスを通して、作業療法では作業活動の遂行を通して、それぞれ個人のADLの自立とQOLの向上を目指しているものと考えられ、運動、身体、作業というより具体的な活動や機能に焦点化されていることが特徴と感じた。そして、こうした他分野の人に看護学の理論的背景やモデル、看護における「健康」の定義について十分に説明できることの必要性も感じている。
 一方、対象者の支援においては、対象者の価値観や意思、自己決定の尊重、および、多職種間の協働の必要性の2点は、分野を超えて一貫して強調されていると感じた。近年、特に自己決定については医療の場においても強調されているが、価値観や意思の尊重という観点で考えると、対象者が意思決定に参加する程度や参加の仕方もまた、対象者が選択したレベルが尊重される必要がある。すなわち、支援のために協働するチームの輪の中心には対象となる患者や家族などが必ず存在し、そこにどの程度どのように参加したいかということも含めて、対象者の意思や選択が尊重されるべきと考える。そして、対象者は情報不足であったり当事者として心理的負担の大きいことが考えられ、自然のままではどうしたいかと自身で決めること自体が難しいため、支援者には対象者との信頼関係の形成と、疑問や気持ちの表出と情報共有できるためのかかわりがまずは求められると考える。 他職種カンファレンスでは問題及び目標の特定と共有が重要であるが、演習後半の模擬カンファレンスでは、事例の問題点についてはある程度共有できたものの目標の共有は困難であった。問題解決のプロセスが職種や専門領域により大きく異なり、互いに理解し納得しあうまでには至らず、多職種が集まり話し合うことの難しさに直面した。その一因について、最後の全体討議を通して、カンファレンスの中で誰が何をするのか、いつまでに何をするのかという点が明確でなかったためではないかと考えた。多くの人がかかわるからこそ、それぞれの役割や責任の明確化、期間内でのチームとしての到達目標の設定が重要と考える。

THPとしての役割・課題
 THPとは何らかのケアサービスの対象者、特に介護力が脆弱であったり家族も含めて複雑な問題を抱えているなど多職種による包括的なアプローチを要する事例において、事例の全体像およびチーム全体を見渡して必要な支援を見定め判断する存在と考える。対象者への支援のためにチームが全体として前進できるための推進者であり、事例の全体像に基づく、必要な資源と時間的な見通し、チームメンバーの動きを含めたプランニングを行うが、THP単独ですべてを処理するということではなく、むしろTHPは基本的にはチーム内での意見交換の結果を総括し、全体にフィードバックしてその共有化を図ったり意見調整を行う役割と考える。そのためには、チーム内での目標の共有やメンバー個々の役割の明確化が必要であり、またメンバー各自の専門職としての自律性が前提条件であると考える。一方、対象の支援においては、ニーズの把握、目標の設定、具体策の立案、実施、評価といったプロセスの各段階で、対象の意思や選択が尊重・反映されていることの確認や、不十分な場合の調整もTHPの重要な役割ではないかと考える。このことから、THPは対象者と直接かかわりをもつ立場であることが望ましいと思われる。
 このようなTHPの役割をふまえると、自身の課題として、まず、他職種の役割や問題解決の枠組みについてもっと理解が必要である。できれば職務上のことだけでなく、その職種の背景である専門領域の中心概念について理解することで、他職種の役割を理解しサポートしあえるようになるのではないかと思う。また、個人的には法律や社会資源に関する知識が不足しており、実践・研究活動のネットワークの中で主体的に学んでいく必要を痛感している。THPまたは多職種アプローチについては、模擬カンファレンスの中でチームメンバーが一堂に会してカンファレンスを行うことの重要性を実感したが、現在職務としてかかわっている人からは実現が難しいという話もあった。時間的な制約の中で目標を明確化して効率的にカンファレンスを運営する力、他職種やその管理者にカンファレンスの意義が理解されるように説明・提案できる力も求められると考える。最後に、実践活動の評価においても、研究活動の成果をもとに問題提起をしていく場合においても、支援のアウトカムの指標の設定が重要と考える。対象にとっての支援の利益を看護の視点ではどのように測定できるのかについて、もっと学んでいく必要があると感じている。

おわりに
 授業の中で、THPとなれるのはどのような人か、自身にTHPの素質があると思うか、という問いかけがあった。これまでの経験、現在の能力や今後の活動の見通しを考えたとき、自身については疑問を感じた。ただ、現在の取り組みの対象である患者に対してヘルスプロモーションと本人が満足できる治療決定に向けてのサポーターでありたいと思っており、そのための包括的な支援を提供する上でTHPでの学びは活用できると考える。今回の学びをもとに、自分の前にある対象者のニーズに対してよりよい支援を行えるようさらに学びを深めていきたい。


名古屋大学大学院医学系研究科  トータルヘルスプランナー(THP)養成コース
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